和歌のあそび訳

マイブームの『百人一首』をいまどきな感じで訳してみました。 〈作者の談〉は歌の作者のコメント的な、解説を含んだフィクションです。 人格設定は妄想。

百人一首 10.これやこの

f:id:kinatomo:20200610091539j:plain

10 これやこの 行くも帰るも 別れては
   知るも知らぬも 逢坂の関 (蝉丸)

  これやこの いくもかえるも わかれては
   しるもしらぬも おうさかのせき (せみまる)

 

おおっ! これかぁ! 地方へ行く人もいれば都に帰る人もいる。ここで見送ったり出迎えたりするんだね。知らん顔で通り過ぎる人もいるし、顔見知りに会う人もいるよ。ここがあの有名な逢坂の関なのかぁ。

 

〈作者の談〉
 都の出入りをする関所のひとつが逢坂の関っていって、結構人でにぎわってるんだよね。僕のうち、この近くにあるんだ。ヒマな時はよく人間ウォッチしてるんだけど、別に怪しい人じゃないよ。こう見えてわりと有名な琵琶の弾き手なんだよね。源博雅(みなもとのひろまさ)さんっていう音楽の得意な貴族に教えたりもしたんだよ。すごいでしょ。
 まぁ、そういうわけで何となく音楽のリズムに乗って詠んでみたんだけど、なかなか面白いと思わない? 行く⇔帰る、しる⇔しらぬ、別れる⇔逢う、って対の言葉を使ってみたり、『も』を繰り返してみたり、歌としては単純だけどノリがいいと思うんだよね。まぁ、たいして意味はないんだけど、世間様はこの歌に仏教でいうところの無常観を感じたらしいんだよ。『会者定離(えしゃじょうり)』って言うんだって。命があれば必ず死があり、出会いがあれば必ず別れがあるってことなんだって。軽い気持ちで詠んだ歌が何だかふかーい意味を持っちゃった、って僕が驚いてるよ。