和歌のあそび訳

マイブームの『百人一首』をいまどきな感じで訳してみました。 〈作者の談〉は歌の作者のコメント的な、解説を含んだフィクションです。 人格設定は妄想。

百人一首 1.秋の田の

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1 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
   わが衣手は 露にぬれつつ (天智天皇

  あきのたの かりほのいおの とまをあらみ
   わがころもでは つゆにぬれつつ (てんじてんのう)

 

秋の収穫時期にね、田んぼのそばにあるぼろっちい小屋で夜通しケモノの見張り番をするんだけど、屋根の苫が隙間だらけなもんだから、夜露が落ちてきて服は濡れるし冷たいし寒いんだよ。

 

〈作者の談〉
 金色に色づいた稲穂がさわさわと風に揺れる様子って、圧巻だよね。と思うんだけどどうだろう? モミをまくところから始めてそこまで育てたんだぜ。もうちょっとで収穫ってときに動物に食われたりしたら、怒り通り越して脱力するよね。だもんだから、うちの村じゃ、田んぼのそばに小屋を建てて動物が食い荒らさないように見張るんだ。奴ら、昼も夜も関係なく、腹が減ったときが食事どきだから、夜も交代で小屋に詰めるんだよね。
 昼はまぁいいよ。友達とか話し相手にきてくれるし? ちょっといいなーって思ってる子が差し入れしてくれるし? 何だったらその子の手なんか握っちゃったり? いや、見張りはしてるよ、うん。けど、夜はつまんないよね。狭い小屋にひとりでぽっつーん、だぜ? まさか酒飲んで寝てるわけにいかないし。何してんだって怒られる。月が出てなきゃ何にも見えないから、たいまつ持って田んぼの見回りとか、ぶっちゃけちょっと怖いよね。イノシシが走り抜けていったときは腰抜かすかと思ったわ。俺も走って逃げちゃったし。あ、これ内緒の話。
 しかも見張り小屋があんまりにもお粗末だからどうにかしてくれって愚痴ってみたんだけど、今のところ改善の気配はない。誰だよ、これ建てたの。隙間だらけで寒いったらないわ。季節考えてる? 夏、終わりだよ? トンボだって飛んでるよ? そりゃあ昼間はあったかいけどさ、夜のことも考えて欲しいわ。雨降ってないのに雨漏りだよ? いや、正確には夜露なんだけど。屋根に乗せた苫、間に合わせで編んだらしいんだけど、編み目が粗くてさ、そのせいでしずくが中に落ちてくるんだよ。中にいれば当然濡れるよね。朝方には俺、しっとり濡れてるくらいだぜ? ただでさえ夜は寒いってのに、服まで濡らしてどーすんの? 俺、風邪ひいちゃうよ。とか文句言いながら自分で直す気もないんだけどね。エヘ。
 っていう生活をしているのかなぁ、農民たちは。大変な仕事だなぁ。そういう苦労があって僕たちはご飯が食べられるんだから、感謝しなきゃね。