和歌のあそび訳

マイブームの『百人一首』をいまどきな感じで訳してみました。 〈作者の談〉は歌の作者のコメント的な、解説を含んだフィクションです。 人格設定は妄想。

百人一首 7.天の原

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7 天の原 ふりさけ見れば 春日なる
   三笠の山に 出でし月かも (阿倍仲麻呂

  あまのはら ふりさけみれば かすがなる
   みかさのやまに いでしつきかも (あべのなかまろ)

 

この広い広い空に見えるあの月。昔、春日大社にお参りに行ったとき、三笠山の上にも出てたのを思い出すよ。あのときの月とそっくりだなぁ。

 

〈作者の談〉
 月を見てると、何だか感傷的な気持ちになるよね。そういう気分だから月を見てるのかもしれないけど。とか言ってかっこいい自分に酔ってみる。
 いやでも、ほんとに泣きそうなくらいうれしい気持ちとさみしい気持ちと、あとはちょっと心配とか不安とか、いろんな気持ちがごちゃ混ぜなんだよ。だって、ついに、ついに! 故郷に帰れるから! 35年も唐の国にいて、散々「帰る帰る」って騒いでたからね。帰る詐欺みたいな感じだったし。まぁ、オレほど優秀な男を手放したくないっていう、唐の皇帝の気持ちもわからないではないけど。外国人でここまで使える人材って俺くらい? じゃないのかなー、きっと。だからようやっと帰ることが決まったとき、同僚のみんなが盛大に送別会開いてくれたんだよ。そのときに出てた月が、むかーし奈良の春日大社で見た月とリンクしちゃって。遣唐使は出発前に春日大社で安全祈願するんだよね。はるか昔のことだったけど、帰国が決まってからは故郷のあれこれが思い出されちゃてさ。もう気持ちは日本に飛んでたよ。唐で暮らした数十年もすんごく貴重だったけど、やっぱり故郷は特別だよね。日本に帰ったら唐の暮らしが懐かしく思い出されるのかなぁ、なんて考えたりもして。有名な詩人のあの李白さんは友達なんだけど、俺にお別れの詩なんて書いてくれたんだよ。唐の生活も悪くはなかったよ、うん。
 だけど結局船は難破しちゃってね。また唐に逆戻り。何度かチャレンジしたんだけどとうとう日本には帰れなかったよ……。